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「高速道建設に『抜け道』 1850キロは審議不要」という見出しへの違和感

事の発端は、先日朝日新聞が1面トップで伝えた
高速道建設に「抜け道」 1850キロは審議不要(朝日新聞)
の見出し。

先に書いていくと、確かに「高速道路」の定義があいまいなのはある。高速自動車国道法や国土開発幹線自動車道建設法でも用語の定義はされておらず、道路交通法関係(高速道路では原付などは走れない、というあれ)で「高速自動車国道と自動車専用道路」、高速道路会社法関係で「高速自動車国道と会社管理の一般有料道路」となっている。つまり、交通の管理という点から見た定義と、会社が管理する道路とい点で実態を定義したものしか無い。

恐らく、ほとんどの人がイメージするおおよそのイメージとしては、「自動車だけが走る、交差点の無いハイスペックな有料道路」みたいな感じだろう。狭義な点から連ねていけば、高速自動車国道<一般有料道路<そのほかの自動車専用道路といったところか。このどこに「ここからが高速道路」という線引きをするのは、案外難しいのだ。とりわけ、「整備の根拠になっているのが何か」という区分と相互に考えるとなおややこしい。高速自動車国道(いわゆるA路線)はいいとして、一般有料道路の中には、米沢南陽道路のように「将来、高速自動車国道に編入されるかもしれない」という意味で先行して作られた一般有料道路(いわゆるA'路線)と、三陸自動車道(矢本石巻道路)のように「高速自動車国道ではないけれどそれを補完する」という一般国道の自動車専用道路(いわゆるB路線)もある。あれ?お金を取られない自動車専用道路は高速道路の概念に入らないの?というとこれも怪しい。例えば尾花沢新庄道路は、「将来、高速自動車国道に編入されるかもしれない」いわゆるA'路線だし(なぜ無料なのか、というと米沢南陽道路は旧JHも施工に加わっていたため、その分だけ料金徴収の対象となっているから。尾花沢新庄道路は100%税金で作られ償還制度と関係ないので無料)、新庄南バイパスは無料の自動車専用道路だけどこれは国道のバイパス道路。ちなみに、ここまで並べたアルファベットの道路が、1987年に四全総で定められた高規格幹線道路、約14,000kmになる。

とまあ、単純に有料か無料か、あるいは高規格幹線道路かどうか、で万人に共通する「高速道路」に一致するかというとなかなか難しいのだ。上に書いたように、有料のA'(米沢南陽道路)と無料のA'(尾花沢新庄道路)、有料のB(三陸道・仙塩道路)と無料のB(三陸道・矢本石巻道路)があって混乱してしまう。しかも、これらをどこまで「高速道路」として捕らえるかというとなお難しい。

さて、ここで朝日の記事を見てみる。まずはこの図。
朝日新聞から

上に書いた約14,000kmのうち、既に開通しているもの、旧道路公団民営化時に評価を行ったものを除いた約2,900kmを先日の中期計画で評価したものの、
> この方針には野党などから「いつの間に造ることを決めたのか」との批判が出ていた。
> これに対し冬柴国交相は「計画段階」としたうえで、
> 「国幹会議の議論を経て厳しく査定しながら真に必要なものを造っていく」として、
> 野党議員を含めた国幹会議を経ることで客観的に必要性の有無が決まる、と説明していた。
>
> しかし、国交省などによると、この2900キロのうち1400キロは、
> 一般国道の自動車専用道路(B路線)。
> 高速道路会社が管理する高速道路より最高速度を抑えられている路線が多く、
> 国幹会議の審議は必要ない。
>
> さらに残りの高速道路(A路線)1500キロのうち約450キロ(事業費2.3兆円)は
> 「高速道路に並行する国道」(A'路線)という位置づけで、
> 国幹会議の審議は不要なことが分かった。(朝日新聞)

実はこれ、引用冒頭の冬柴大臣の国幹会議の説明はともかく、制度自体はこの20年弱変わっていないので、今さらわかったことではない。

また冒頭の
> 政府が道路整備中期計画で整備方針を決めた高速道路など「高規格道路」2900キロのうち
> 3分の2にあたる約1850キロは、国土開発幹線自動車道建設会議(国幹会議)の
> 審議を経ず建設できることが分かった。
> 国道として着工するが、高速道路の規格で整備、完成後に高速道路に「格上げ」される路線も
> 450キロ含まれ、一部は着工済みだ。
> 冬柴国土交通相は国幹会議が道路建設の必要性について判断するとしていたが、
> なし崩し的に造られる恐れがある。
だが、

1,850kmのさらに3/4にあたる1,400kmは、そもそも「高規格で作る一般国道」として国土交通大臣が定めるものなので、そもそも国幹道法で予定路線に含まれていない部分について、「国幹会議で審議されない」というのは決して抜け道でもなんでもないし、今さら「分かった」というのもいまいち釈然としない。ましてやこういうレトリックに関しては日本一のジャーナリスト宣言、朝日新聞だ。こうなると冬柴大臣の答弁を引用した
> 「国幹会議の議論を経て厳しく査定しながら真に必要なものを造っていく」
という言葉も、ここに書かれていない「主語」が、はたして「高速自動車国道」なのか、「高規格幹線道路」なのかというのもチェックが必要な気がする(前者なら何ら誤った答弁ではないが、後者なら誤った答弁)。A'が後付けで国幹会議にかけられるのは確かに疑義が生じるが、B路線が別枠であることを「抜け道」とするのには疑問だ。

特に違和感を覚えるのは、記事のタイトル「高速道建設に『抜け道』 1850キロは審議不要」だ。上の図で既開通+整備計画策定済の部分で「一般有料道路」「国の高速道路整備計画」と分けており、これはいわば「B+A'」と「A」に該当するわけだけど、どうやら「高速道路」はA路線と定義しているようだ。しかも、これからの部分についても「B路線」「A'路線」「A路線」をそれぞれ「自動車専用道路」「高速道路に並行する国道」「高速道路。国幹会議の審議を経て建設が決まる」と説明し、B+A'について「国幹会議の審議なしに建設できる」とくくっている。
ところが、朝日は記事の見出しで「B+A'」を「審議不要の高速道」と書き、「高速道路」と定義した「A路線」と微妙に語句を変えている。上手いな。だって、「B+A'」を「審議不要の高速道路」って書いたら、少なくともBを高速道路と別書きにした下の図と齟齬が生じるんだもの(もっとも、B路線の区間を国幹会議にかけて後追いで予定路線→基本計画→整備計画区間とする手もあるけれど、非現実的か)。しかも本文冒頭では同じように「高速道路など『高規格道路』2900キロ」と「高規格道路」という単語を使っている。このへんの印象操作が上手いよね。

さて、散々朝日の嫌らしい書き方を叩いたあとで書くのもなんだけど、A'路線というのは、やはり手続きの正当性という観点から疑問が残る。それでもやっぱり「抜け道」と言われても仕方ない450kmだけではなく、都合よく言葉を選んで1,850kmまで膨らませることには違和感を禁じえない。

===追記===
「抜け道」高速道、着工前に審議へ 冬柴国交相が表明(朝日新聞)
また同じことをやってるし。
というか、一般国道の自動車専用道路って(そりゃ三陸道と外環を一緒にしようとは思わないけど)全部が全部国土開発幹線自動車道建設会議にかけなきゃならないものかなあ?
恐らくいくつかの路線が犠牲になって三方一両損になるんだろうけど、政治家さんたちの駆け引きと自己満足に終始している気がする。

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2008年02月22日 21:58に投稿されたエントリーのページです。

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