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道路特定財源に関する議論についてのあれこれ

通常国会が始まって、鳩が「ガソリン国会」と鳴けば、フフン♪が「言葉が躍るだけでは何も変わらない」と一蹴したところ。
さて、民主党が「ガソリン国会」と勝手に位置づけた今国会で、平成20年度予算よりも盛り上がっているのがこの道路特定財源の問題だ。おおもとの税率を定めた個別の法律の議論もさることながら、今年の3月末および4月末(自動車重量税等)までとなっている「暫定」税率の扱いが議論の焦点だ。「地方の道路整備のためには暫定税率の継続が不可欠」と、またしても「暫定」の延長を目指す与党や地方の首長らに対し、「一般家計の負担を軽くする」として暫定税率の廃止と道路特定財源の一般財源化を主張する野党との衝突が早くも始まったことになる。まさか平成20年度予算よりも盛り上がるとは思いもよらなかった。昨今の原油高を背景に民主党が青写真のまま煽ったというのもあるけれど、これは結構意外な展開。

さて、ここはタイトルどおりのブログなので、いわゆる道路特定財源以外の租税特別措置法関係の話はおいておく。まず「暫定税率延長派」の主張である「地方の道路整備のためには暫定税率の継続が不可欠」だが、山形県でも昨今の各都道府県の流れに乗って土木部がそろばんを弾いた。他県の状況を載せた河北の記事と合わせて並べてみる。
道路事業費減少は318億円 県が暫定税率廃止の影響公表(山形新聞)
暫定税率廃止 県内で116億円の歳入減(読売新聞)
暫定税率:「廃止なら予算60%減」 道路事業、県が試算 /山形(毎日新聞)
東北各県、道路予算減少で影響甚大 暫定税率廃止問題(河北新報)

道路特定財源の話をするのに非常に悩ましいのは、いわゆる「道路整備に必要な財源は、道路を利用する車や車が使う燃料から税金を取ります」という一見シンプルな目的に相反して、税目が多かったり、地方税以外にも国から紐付きで地方に配布されたりなどお金の流れがまことにややこしいこと。詳しくは、国交省道路局のサイトを見てほしいのだが、普通に考えて一般国民にわかってほしいとは思えない書き方なので、がっかりしながら読んでほしいところ。

さて、山形県の土木部が作った資料を元に考えてみるとこうなる。県の土木部が作ったので、若干あちらに傾いた書き方なのが難だけど、そこは仕方ないか。今回、仮に暫定税率が廃止された場合、山形県内で道路関係事業に投じられている525億円のうち約60%にあたる318億円分が投資不可能になるという。
その根拠の前に、暫定税率が廃止されると、どのような歳入・事業に影響を及ぼすか書いてみる。まず県や市が徴収する道路関係地方税の暫定分が廃止されることによる減収・・・(1)、国が徴収した道路特定財源の地方配分の減収・・・(2)、国が道路特定財源を用いて行う地方の補助事業の減・・・(3)などが考えられる。また、仮に代替財源が確保されない場合、道路関係以外への支出から一般財源を充当することも予想され、間接的な事業削減も含めれば「ほかに市町村や国の事業も休止すると予想され、県内全体の道路事業費は500億円以上減るのでは」(読売新聞)といわれている。
この道路整備費60%カットによって、
> 高村土木部長はこの試算を踏まえ、
> 「財源不足により高速道路整備は10年程度遅れるほか、交付金事業(約100カ所)は休止、
> 除雪や除草などの維持管理はサービス水準を3割程度下げざるをえない」とし、
> 「このような状況は今の県民だけでなく、次の世代への影響も懸念される」との考えを示した。
(山形新聞)という影響が考えられている。そう、いわゆる道路特定財源は「道路を新しく造るための予算」だと思われがちだが、道路の維持管理や修繕、改良といった事業にも使われており、新たに造らなくとも道路がそこにある以上ゼロにはできない予算なわけ。
にも関わらず、全国で一番この余波を受ける北海道の地元紙、北海道新聞が社説で
> ただ、ガソリン価格の高騰が生活を直撃しているいま
> 「道路をつくるため」という理由だけで維持を求めても、国民の支持は得られるだろうか。
書いているのはいささかミスリードを誘いかねない。


ここで民主党が昨年12月に公表した「2008年度の税制改革大綱」を見ると、次のようにある。
> ○自動車関係諸税の内、特定財源に係わるものについて、
>  地方分を含めて全て一般財源化する。
> ○また暫定税率も、地方分を含めて全て廃止する。
>  暫定税率廃止後においても、地方における道路整備事業の水準は、
>  従来水準を維持できるよう、確保する。
すなわち、まず暫定税率分については全て廃止・・・(1)し、引き続き徴収する本則分についても目的を道路に特定するのではなく一般財源として扱う・・・(2)というものだ。また、当然これでは歳入が減るだけなので、道路整備事業の水準を従来のまま維持できるよう確保するという。どうやって?これについてはその後にこう書かれている。
> 個別補助金を原則廃止した上で創設する「一括交付金」を、
> 過疎等条件不利地域のある地域に重点的に配分するなど
> 特に地方の財源に配慮する財政調整として活用し、
> 地方が道路整備事業の水準を主体的に判断できる財政的基盤の構築を進める。
と、道路特定財源以外にもある個別の紐付き補助金を廃止した後に創設する「一括交付金」を地方に配分することによって、地方が柔軟に事業に使える(道路整備に使ってもよし、そのほかに使ってもよし)お金を渡すというものだ。

ここでぜひとも民主党にクリアしてほしい2つの大きな壁がある。一つは、代替財源として掲げた「一括交付金」とやらで、実質減収となる暫定税率分2兆9千億円(「道路特定財源とは?」から暫定税率相当分を割戻しで概算した数字)を補うことを補うことができるのか、というもの。もう一つは、実質として地方の中央依存度を上げることなるこの政策が、民主党の政策の一貫性に疑問を呼びかねないということだ。前半は言わずもがな。普通に考えて、まずどこの財布に入るかは別にして税収が減るのだから、支出を減らすか他の収入源を見出さなくてはならない。これが単なる絵空事で終わらないことを明確に示す必要がある。そして、仮に「一括交付金」とやらで地方に回る分を補填したことを想像してみよう。一見して、減収分に相当する額が「何に使ってもいいですよ」という補助金でやってくるのだから好都合のように見える。でもそもそも考えてみると、いわゆる道路特定財源のうち、約40%は地方税だ。暫定税率分だけ見ても約8千億円をパチンと消した挙句、それについて政府から補助金で充当するというのは、いくらそれが自由に使えるものであるとはいえ、自治体の自主財源を減らしていることには間違いないのだから、声高に叫ぶ「地方分権」に相反するのではないのかな?

ここで民主党つながりで脱線。先日、この「代替財源は?」の中で、鳩が「国の直轄事業として行う公共事業の地方負担分を国に戻せば、その分をまわせる」と語っていた
そもそも、これはあまり知られていないことだけど、国の行う道路事業(というか公共事業)は全て国のお金でやっているわけではない。いわゆる国の直轄区間と県が行う区間で比率は異なるけれど、新設や改築(R13上山BPなど)は、県が1/3を負担し(県管理区間では1/2を負担)、普段の維持修繕にいたっては県が45%(県管理区間では100%)を負担している。(道路法第50条第1項,第2項)
これを国の負担に戻せば、これまで県負担分に充ててきた金額が浮くので、代替財源を確保できるという話がある。なるほど。日本全国で見ればそれに近いことはできる。ここでも二つ問題があって、脱線話題なので軽く触れるけど、都市部と地方部では金額にばらつきが出るのは誰でも予想できるので、儲かる自治体と損する自治体が発生することから「代替案」となりうるか、というもの。また、結局財源不足を地方の財布から国の財布に移しただけなので、国の財源不足をどうにかしなきゃいけなくなる単なる自転車操業にすぎないということ。

言っておくけど、別に民主党の案を潰したいとか暫定税率は意地でも守るべきとは思っていない。あえて言うとすれば「道路特定財源=無駄な道路を造るための聖域」というアホな既成概念をどうにかしなきゃとは思っているけど。
むしろ、民主党の言うように国直轄事業の地方負担分の是正はすべきだと思うし、暫定税率の議論は必要だと思っている。だが、「国民の生活が一番」などという(ある意味当たり前のことだが)甘言のもと、「ガソリン税が下がれば家計の負担が軽くなる」という税の目的という本質を蔑ろにした議論はいかがなものか。道路特定財源の使い道を考え「必要な事業とそれにあてる予算」という考えをするべきなのに、特措法の時間切れと参議院の過半数を盾にして金額の切った貼ったで政争の具にするのは、思わず脱力せざるを得ない。

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2008年01月23日 14:49に投稿されたエントリーのページです。

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